地域経済レポート■2001年9月

「成長会計からみたバブル崩壊以降の製造業低迷の背景」
-生産性向上のカギを握る質の高い新規設備投資-

執筆者:調査部 門倉 貴史
「かながわ経済情報」2001年9月号収録

 要 旨 
1.  製造業の中長期的な付加価値の成長は、最も基本的な生産要素である労働、資本の投入量の増加、そしてイノベーションなどによる生産性の向上によってもたらされる。80年代まではこれら3つの要因がいずれも高い伸びで推移し、製造業の高成長を支えてきた。
2.  しかし90年代に入ると、労働投入量は、海外への生産拠点シフトなどを背景に国内で過剰雇用が発生したため減少傾向をたどるようになった。また、資本ストック投入量も、バブル期の過剰投資で積み上がった設備の調整が長引きマイナスの伸びに転じている。
3.  生産要素投入の現象が続くなかで、製造業の持続的な成長を可能にするのは生産性の上昇である。成長会計の手法により生産性を表すTFPを計測したところ、その伸びは90年代に入って鈍化していることが分かった。
4.  製造業全体では生産性が伸び悩んでいるものの、業種別・地域別にTFPを計測すると、業種別には情報化投資が活発化している電気機械、地域別には大都市圏に比べて新規投資がおう盛な九州や東北などの地方圏において90年代に入ってからもTFP上昇率が高まっていることが確認できた。
5.  こうしたTFPの計測結果から判断すると、製造業が生産性上昇率を高めるには、質の高い新規投資を積極的に実施していくことが有効である。ただし、生産性上昇によって生産能力を拡大しても、需要が同時に拡大しても、需要が同時に拡大しなければ、受給ギャップが開き業績がさらに悪化することにもなりかねない。需要の拡大を伴いながら生産応力を高めるには、生産性の上昇を生産工程の効率化によって実現するとともに、需要を喚起するような付加価値の高い新製品の開発によって達成することが望ましい。

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