平成23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震以降にも、淡路島地震、集中豪雨による浸水など、多くの災害が発生しています。大規模な自然災害が発生すると、平常時からの福祉サービスの利用者だけでなく、福祉的な支援を必要とする地域住民の安全や安心に大きな影響を与えることとなります。
これらの災害時に社会福祉法人が地域社会の中で担う役割は大きく、自法人の福祉サービスの利用者だけでなく、福祉的な支援が必要な地域住民の安全、安心の拠り所となることが期待されます。
そのために、自法人の事業の継続を図る事業継続計画(Business Continuity Plan、以下、BCP)だけでは不充分で、地域継続計画(District Continuity Planning、以下、 DCP)の観点を取り入れた事前の対策づくりが必要であると考えられます。
しかし、平成23年度社会福祉推進事業において当社が行った調査(対象:全国3,706箇所の事業所)によれば、このような視点で災害時に対応していこうという社会福祉法人はまだ少ないようです。
その要因は、そもそも福祉事業所向けのBCPの策定手法が確立されていないことと、実際に策定しようと思っても、他の緊急度が高い業務が優先されてしまうことや、「計画策定」というと用意周到な準備のもと、間違いの内容に作らなければならないとの先入観から、必要性を強く認識しつつも、具体的な行動に至っていないことが挙げられます。
以上の背景を踏まえ、本事業は社会福祉法人においてDCPの観点を取り入れたBCP策定の普及啓発を目的として実施します。
従来から存在する防災計画や防災マニュアルでは、人命の安全確保の手順は明らかにされているが、被災後に福祉サービスの提供を継続する備えまでは検討がなされていないことが多い。
「職員の出勤が困難な場合」「施設の建物や調理設備、情報システムなどの機器類が利用できなくなった場合」「電気・ガス・水道・通信などのライフラインの停止や食料品などの調達が困難になる事態に陥った場合」に、どのように福祉サービスを提供していくのか、事業継続計画(以下、BCP; Business Continuity Plan)を策定することで明確にすることができる。
しかし、弊社が平成23年度に実施した調査によれば、災害に対する計画・マニュアルを策定している福祉事業所は、地震については41.9%、風水害については35.0%にとどまっている。同調査で「計画・マニュアルの策定の必要性を感じているものの策定していない」福祉事業所が策定しない理由として多く挙げられたのは、「策定のためのノウハウがない」という回答である。
一般企業を対象としたBCP策定の手引きは多く公開されているものの、固有のリスクを抱え、策定のためのノウハウの乏しい中小規模の福祉事業所に適した手引きはあまり公開されていないことが要因と考えられる。
多くの場合、年に1、2回の防災計画や防災マニュアルに沿った初期消火訓練や避難訓練にとどまっている。事業の継続に必要な手順について、演習によって不備の検証まで行っているケースは少ない。
そこで、本事業では、福祉事業所が実態や提供するサービスに即したBCPを策定することができるように、具体的な策定方法や様式などを紹介するガイドラインを作成し、福祉事業所の緊急事態への対応力強化に資することを目的とする。
1.先行事例調査 2.策定モデル事業調査 3.ガイドラインの作成
災害時の地域福祉の継続に向けた対策を既に実施している社会福祉法人にヒアリング調査を行う。
策定しているBCP、災害時における地域継続活動の内容とそれを検討するプロセス、体制、現状における課題などについて明らかにする。
■調査対象
(1)中核機関調査(対象:5地域):
災害時においても、地域福祉活動を継続するための対策を実施済みの社会福祉法人(社会福祉協議会を含む)
(2)関連機関調査:
災害時に中核機関と連携することが想定されている行政、福祉事業所などの関連機関
■調査項目
(1)中核機関向け
1. 基本属性(実施事業、利用者数、職員数等)
2. 策定したBCPの内容
3. 災害時における地域継続活動の内容
・活動の内容
・活動に取り組んだ動機、取組みのプロセス、実施体制
<活動の例>
・災害時を想定した行政や他の福祉施設・事業所との平時からの定期的な
情報交換や協定の締結
・災害時を想定した企業との平時からの定期的な情報交換や協定の締結
・災害時を想定した他の社会福祉協議会との応援協定の締結
(2)関連機関向け
1. 自法人としてのBCP策定状況
2. 地域連携の内容
・災害時を想定した平時からの定期的情報交換や協定の締結
・応援協定の締結
・想定される実際の対応
BCPの策定を予定している社会福祉法人に対して、DCPの観点を取り入れたBCPの事業継続計画の策定・導入を行う。
■調査対象
浜銀総合研究所 調査員が対象法人を訪問し、当該法人の担当者とともに策定を行う。
※自治体が公表する各種資料を参考に、事業検討委員会での議論を踏まえて策定を行う。
■調査項目
策定・導入の過程で、策定の手順や、策定の阻害要因・促進要因を整理・分析する。
1. 基本属性(実施事業、利用者数、職員数等
2. DCPを踏まえたBCP策定・検討過程での課題
・事業及び業務の洗い出し方法
・業務に必要な経営資源の洗い出し方法
・地域の被害想定、地域継続のための対策 等
3. モデルBCPの作成プロセスの特徴の検証
・BCP作成部分の評価
・DCPを踏まえた作成部分の評価
先行事例調査と策定モデル事業に基づき、福祉事業所がDCPの観点を取り入れたBCPを策定する際のポイントを文書としてまとめ、公表します。
■事業検討委員
〇:委員長 五十音順、敬称略
氏 名 | 所 属 | 役職等 |
市川 禮子 | 社会福祉法人きらくえん | 理事長 |
〇 大林 厚臣 | 慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 | 教授 |
谷口 郁美 | 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会 | 部長 |
長根 祐子 | 社会福祉法人宏仁会 | 理事長 |
三橋 浩司 | 三菱自動車工業株式会社 | エキスパート |
山内 哲也 | 社会福祉法人武蔵野会 | 本部次長 |
山本 正幸 | 社会福祉法人宍粟市社会福祉協議会 | 事務局長 |
■事務局
株式会社 浜銀総合研究所 経営コンサルティング部
「福祉事業所 防災対策・事業継続調査」事務局
■住所
〒220-8616 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-1-1
■お問い合わせ先
・TEL:045-225-2373
・FAX:045-225-2198
・E-mail:fukushi_bcp@yokohama-ri.co.jp
・担当:山本、東海林(とうかいりん)、江嶋